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福井地方裁判所 昭和43年(ワ)466号 判決 1969年5月26日

原告 伊藤智恵 外一名

被告 紀北信用商事株式会社

主文

原告等の被告に対する福井地方裁判所昭和三一年(ワ)第一〇五号約束手形金請求事件の判決主文第一項に基づく金銭債務は、存在しないことを確認する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求め、その請求原因として、次のとおり陳述した。

「一 亡伊藤又右衛門は、被告に対し、主文第一項掲記の債務を負担していたところ、昭和三二年一一月二九日死亡したため、右債務は、その相続人である原告両名においてこれを承継した。

二 しかしながら、被告は、主文第一項掲記の判決が昭和三二年五月三日確定をみたのに、本件訴訟が提起された昭和四三年一二月二一日にいたるも、右判決主文第一項に基づく債権を行使しなかつたので、右債権は、すでに右判決確定の日の翌日から一〇年を経過している現在においては、時効によつて消滅したものというべきであり、原告等は、いずれも本訴において右の時効を援用する。

三 もつとも、右第一項掲記の債権については、これが執行保全のため、被告において、亡伊藤所有の別紙目録<省略>記載の不動産に対し、昭和三〇年一〇月六日福井地方法務局金津出張所受付第一三七四号をもつて仮差押の登記記入を得てはいるが、すでにその本案訴訟の判決である主文第一項掲記の判決が確定し、右確定判決に基づく債権が時効消滅した以上、右仮差押の登記記入は、消滅時効の完成になんらの消長を来すものではないと解される。

四 してみれば、主文第一項掲記の債務は、すでに消滅に帰したのに、被告はなおこれを争うから、原告等は、ここに主文第一項の債務の存在しないことの確認を求めるため、本訴請求におよんだ。」

被告および被告訴訟代理人は、本件口頭弁論期日に出頭しなかつたが、陳述したものとみなされた被告訴訟代理人提出の答弁書には、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は、原告等の負担とする。」との判決を求める旨、および請求原因に対する答弁として、次のような各記載がある。

「一 原告等主張の請求原因事実は、被告においてすべてこれを認めるが、その主張の消滅時効が完成したとの原告等の主張はこれを争う。

二 すなわち、原告等がすでに自陳するとおり、原告等主張の債権については、被告において、その執行保全のため、原告等主張の不動産に対し、仮差押の登記記入を得ており、このような場合には、仮差押の効力は、その本案訴訟が原告たる債権者の勝訴に帰し右勝訴判決が確定しても失効する根拠はないから、右判決の確定後その権利を行使することなく一〇年を経過したとしても、仮差押により、時効は中断し、原告等主張の消滅時効は、未だその完成をみないというべきである。

三 してみれば、その主張の消滅時効が完成したことを前提とする原告等の本訴請求は、すべて理由がないから、その棄却を求める。」

理由

一  被告訴訟代理人提出の答弁書によるも、原告等主張の請求原因事実は、被告においてこれを認めているから、本件における唯一の争点と解される原告等主張の時効完成の有無の点について判断する。

二  民法は、その第一七四条ノ二において、原告等の主張するように、判決で確定した権利は、一〇年の消滅時効に服する旨を規定する一方、第一四七条において、仮差押を時効中断の一事由と認めている。しかして、民法が、時効制度を認めた理由は、時の経過によれば、権利存在の証拠の不明、したがつて権利そのものの存在の不明を生じ、当事者間に権利の存否に関する争が生ずる虞があるため、一定期間の経過によつて当事者間に生ずべき紛争の解決を図ろうとしたことにあり、裁判上の請求の中断効に触れた民法第一五七条第二項の規定も、右趣旨の現われということができる。もつとも、仮差押は、裁判上の請求があつたことを前提とするものではないから、これを独立の中断事由としたのであるが、前記のような同項の規定の趣旨に鑑みれば、仮差押による中断と裁判上の請求による中断とを異別に解すべき合理的な理由はないというべきであるから、本件のように、前になされた仮差押の中断効は、後に確定した本案の判決に吸収され、時効は、結局本案判決確定の時から更に進行すると解するのを相当とする。

三  元来、仮差押は、債権者が債務名義を得て本執行をなすまでの間の保全執行にすぎず、それ自体としては、なんら請求権の存在を公けに確認するものではない。これを、被告の主張するように、仮差押がある以上、確定判決に基づく権利についてはその消滅時効は完成しないと解するとすれば、請求権の存在を公証する効力を有する確定判決さえも、前記のように、一〇年の消滅時効に服するのに、たまたま右程度の効力を有するにとどまる仮差押がなされているというその一事によつて、当事者間の権利関係は、その取消がない限り、永く不確定の状態に放置されるという不合理を招き、このような結果を生むことは、前記時効制度を認めた民法の精神に遠ざかる結果を招来することに帰するというべきである。

四  以上によれば、すでに主文第一項に記載する判決が、原告等主張の日に確定したのに、右確定の日の翌日から一〇年を経過したにもかかわらず、この間に被告から右判決に基づく権利の行使がなかつたことについて当事者間に争いがない本件においては、当裁判所は、被告の主張にもかかわらず、原告等の援用する消滅時効は、すでに完成したことも肯認せざるを得ないのである。

五  そうであるとすれば、その主張の消滅時効が完成したことを前提とする原告等の本訴請求は、正当というべきであるから、すべてこれを認容し、訴訟費用については、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 天野正義)

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